初心者から始める地理情報システム
GISは、地図上にデータを重ねて「見える化」「分析」「共有」できる強力なツールです。
このガイドでは、GIS初心者の方向けに、基本概念から導入ステップまでを体系的に解説します。測量・土木、建設、不動産、農林業、行政など、様々な業界での活用方法も紹介します。
1. GISとは
1.1 基本概念と仕組み
GIS(Geographic Information System:地理情報システム)とは、地図上にさまざまなデータを重ねて表示・分析・管理するシステムです。
単なる地図表示ツールではなく、位置情報を持つデータを活用して、意思決定を支援するための仕組みです。
【GISの基本構造】
地図データ(ベースマップ)
│
├── 道路データ
├── 建物データ
├── 現場データ ← 自社データを重ねる
└── 分析結果
│
▼
可視化・分析・共有
1.2 紙地図・Excelとの違い
| 比較項目 | 紙地図 | Excel | GIS |
|---|---|---|---|
| 更新のしやすさ | × 印刷し直し | ○ | ◎ リアルタイム |
| データ分析 | × | ○ 数値のみ | ◎ 空間分析可能 |
| 複数データの重ね合わせ | × | × | ◎ |
| 共有・配布 | △ | ○ | ◎ Web公開も可能 |
| 検索・フィルタリング | × | ○ | ◎ 空間検索も可能 |
GISを使うメリット
- 「どこに」「何が」「どれくらい」あるかが一目でわかる
- 複数の情報を重ねて分析できる
- データの更新・共有が容易
- 紙では不可能だった空間分析ができる
1.3 導入メリット
業務効率化
- 現場情報の一元管理
- 報告書・地図作成の自動化
- 情報共有の迅速化
コスト削減
- 紙地図の印刷・配布コスト削減
- 移動時間の短縮(事前に現場を把握)
- データ入力の二重作業削減
意思決定の質向上
- データに基づく客観的な判断
- 傾向や課題の「見える化」
- 関係者間での認識共有
2. 業界別活用シーン
2.1 測量・土木
主な活用例
- 現場の位置情報管理
- 測量成果の可視化
- 工事進捗の地図上での管理
- 図面と現地の照合
【具体的なメリット】
Before: 紙の図面を現場に持参、手書きでメモ
After: タブレットで現場を確認、その場でデータ入力
→ 事務所に戻ってすぐに共有・報告
2.2 不動産・建設
主な活用例
- 物件情報の地図管理
- 周辺環境の分析(学校、駅からの距離等)
- 建設予定地の事前調査
- 顧客への説明資料作成
具体的なメリット
- 物件検索が直感的になる
- 営業資料の作成時間短縮
- 競合物件との比較が容易
2.3 農林業
主な活用例
- 圃場・森林の管理
- 作業記録の地図上での管理
- 収穫予測・計画
- 獣害対策(被害箇所のマッピング)
具体的なメリット
- 広大なエリアを効率的に管理
- 作業履歴の蓄積と分析
- 補助金申請資料の作成効率化
2.4 行政・公共
主な活用例
- インフラ台帳管理
- 防災マップ作成
- 都市計画の検討
- 住民向け情報公開
具体的なメリット
- 部署間でのデータ共有
- 住民への説明資料として活用
- 過去データの蓄積と比較
3. GISソフトの選び方
3.1 有償(ArcGIS)vs 無償(QGIS)
| 比較項目 | ArcGIS | QGIS |
|---|---|---|
| 費用 | 有償(年間ライセンス) | 無償 |
| サポート | 公式サポートあり | コミュニティベース |
| 機能 | 豊富、統合的 | 必要十分、プラグインで拡張 |
| 学習コスト | 教材豊富 | 日本語情報が増加中 |
| カスタマイズ | Python(ArcPy) | Python(PyQGIS) |
| 商用利用 | ライセンスに準ずる | 制限なし |
ArcGISが向いているケース
- 大規模組織での導入
- 公式サポートが必要
- 既存システムとの連携が必要
QGISが向いているケース
- コストを抑えたい
- 小規模から始めたい
- カスタマイズ性を重視
- オープンソースの柔軟性が必要
Link Fieldの推奨
中小企業には、まずQGISからのスタートをおすすめします。無償で始められ、必要に応じて機能拡張できます。
3.2 WebGISとは
WebGISは、Webブラウザ上で動作するGISです。インストール不要で、URLにアクセスするだけで地図の閲覧・編集ができます。
WebGISのメリット
- インストール不要(ブラウザだけで動作)
- どこからでもアクセス可能
- 複数人での同時閲覧・編集
- スマホ・タブレット対応
- データの一元管理
WebGISのデメリット
- インターネット接続が必要
- 大量データの処理には向かない
- 高度な分析機能は限定的
- サーバー構築・運用が必要(自前の場合)
代表的なWebGIS
| サービス/ツール | 特徴 | 費用 |
|---|---|---|
| Googleマイマップ | 手軽に始められる、共有が簡単 | 無償 |
| ArcGIS Online | 高機能、企業向け | 有償 |
| Mapbox | カスタマイズ性高い、開発者向け | 従量課金 |
| Leaflet + GeoServer | オープンソース、自由度高い | 無償(サーバー費用別) |
| MapLibre GL JS | 高速描画、3D対応、オープンソース | 無償 |
| QGIS Cloud / QWC2 | QGISプロジェクトをWeb公開 | 無償〜有償 |
【WebGISの活用イメージ】
┌─────────────────────────────────────┐
│ WebGISサーバー │
│ (地図データ・属性データを管理) │
└─────────────────────────────────────┘
│
インターネット
│
┌────┼────┐
▼ ▼ ▼
事務所 現場 顧客
(PC) (スマホ)(PC)
→ 同じ地図を全員がリアルタイムで共有
WebGISは自作・カスタマイズできる
WebGISは既製サービスを使うだけでなく、オープンソースのライブラリを組み合わせて自作することも可能です。自社の業務に特化したWebGISを構築できます。
自作WebGISのメリット
- 業務に最適化した機能を実装できる
- ランニングコストを抑えられる
- 複数のオープンデータを自由に組み合わせ可能
- 顧客向けツールとして提供できる
自作WebGIS事例(みるラボ / miru-lab.jp)
Link Fieldが運営する「みるラボ」では、オープンデータとオープンソースライブラリを活用した様々なWebGISコンテンツを公開しています。
| コンテンツ | 機能 | 活用例 |
|---|---|---|
| 日影シミュレーター | 建物による日影を時刻別にシミュレーション | 不動産調査、建築計画 |
| CS立体図ビューア | 地形の微細な起伏を可視化 | 測量、防災、森林管理 |
| 今昔マップ | 古地図と現代地図の重ね合わせ | 土地履歴調査、教育 |
| 地価推移マップ | 過去の地価データを時系列で可視化 | 不動産評価、投資判断 |
| ローカルAI×GIS | AIで用途地域判定・写真解析 | 土地調査、現場確認 |
【自作WebGISの技術構成例】
┌─────────────────────────────────────┐
│ フロントエンド │
│ MapLibre GL JS / Leaflet / Deck.gl │
│ (地図描画・インタラクション) │
└─────────────────────────────────────┘
│
┌─────────────────────────────────────┐
│ オープンデータ │
│ ├── 地理院タイル(背景地図) │
│ ├── CS立体図(地形) │
│ ├── 国土数値情報(用途地域等) │
│ └── PLATEAU(3D都市モデル) │
└─────────────────────────────────────┘
│
┌─────────────────────────────────────┐
│ バックエンド(必要に応じて) │
│ GeoServer / PostGIS / Node.js │
└─────────────────────────────────────┘
WebGIS開発のご相談
「自社専用のWebGISを作りたい」「既存のシステムに地図機能を追加したい」といったご相談も承っております。オープンソースを活用した低コストでの開発が可能です。
3.3 クラウド vs デスクトップ
| 比較項目 | クラウドGIS | デスクトップGIS |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低い | ソフト購入/インストール |
| 月額費用 | 発生 | なし(有償ソフト除く) |
| アクセス | どこからでも | PC限定 |
| データ容量 | プランによる | PC性能による |
| セキュリティ | サービス依存 | 自社管理 |
使い分けの目安
- クラウド:チームでの共有重視、外出先からのアクセスが必要
- デスクトップ:大量データ処理、セキュリティ重視、オフライン環境
3.3 用途別おすすめ
| 用途 | おすすめソフト | 理由 |
|---|---|---|
| 初めてのGIS | QGIS | 無償、日本語対応 |
| 測量・土木 | QGIS + Python | カスタマイズ性 |
| チーム共有 | Googleマイマップ → WebGIS | 導入しやすさ |
| 大規模組織 | ArcGIS | サポート、統合性 |
| 開発・カスタマイズ | QGIS + PyQGIS | オープンソース |
4. データの準備
4.1 オープンデータ活用
日本では多くの地理データが無償で公開されています。
主なオープンデータ
| データ | 提供元 | 内容 |
|---|---|---|
| 基盤地図情報 | 国土地理院 | 道路、建物、標高等 |
| 国土数値情報 | 国土交通省 | 行政区域、土地利用等 |
| 地理院タイル | 国土地理院 | 背景地図(航空写真含む) |
| e-Stat | 総務省 | 統計データ(境界データ含む) |
活用のポイント
- まずはオープンデータで試す
- 自社データと組み合わせて価値を出す
- データの更新頻度を確認する
4.2 自社データのGIS化
GIS化できるデータの例
- 住所情報 → ジオコーディングで座標化
- GPS記録 → そのまま取り込み可能
- 図面(CAD) → 座標合わせで取り込み
- 写真(位置情報付き) → 撮影地点をマッピング
住所からの座標変換(ジオコーディング)
入力:東京都千代田区霞が関1-1-1 ↓ ジオコーディング 出力:緯度 35.6762, 経度 139.7502 ↓ GIS上に点として表示
4.3 データ形式の基礎
よく使うデータ形式
| 形式 | 拡張子 | 特徴 |
|---|---|---|
| シェープファイル | .shp | 最も普及、複数ファイルで構成 |
| GeoJSON | .geojson | Web向け、テキスト形式 |
| GeoPackage | .gpkg | 新しい標準、単一ファイル |
| KML/KMZ | .kml/.kmz | Google Earth形式 |
| CSV | .csv | 座標列があれば取り込み可能 |
初心者へのおすすめ
- まずはCSV(座標付き)から始める
- 慣れたらシェープファイルやGeoPackageへ
4.4 クラウドデータベースとの連携
Googleスプレッドシートなどのクラウドサービスをデータベースとして活用し、QGISと連携させることで、複数人が常に最新のデータを共有できます。
QGIS × Googleスプレッドシート連携
【クラウド連携の仕組み】
┌─────────────────────────────────────┐
│ Googleスプレッドシート │
│ (マスターデータベースとして使用) │
│ ┌─────────────────────────────┐ │
│ │ ID | 名称 | 緯度 | 経度 | 状況 │ │
│ │ 1 | 現場A| 35.68| 139.7| 完了 │ │
│ │ 2 | 現場B| 35.69| 139.8| 作業中│ │
│ └─────────────────────────────┘ │
└─────────────────────────────────────┘
│
自動同期(CSV公開 or API)
│
┌────┴────┐
▼ ▼
QGIS(A氏) QGIS(B氏)
│ │
└────┬────┘
▼
全員が同じ最新データを表示
連携のメリット
- リアルタイム共有:スプレッドシートを更新すれば全員のQGISに反映
- 入力が簡単:現場からスマホでスプレッドシートを更新
- コスト削減:専用サーバー不要、Googleアカウントだけで運用
- 履歴管理:スプレッドシートの変更履歴で過去データも確認可能
実装方法(3つのパターン)
| 方法 | 難易度 | 特徴 |
|---|---|---|
| CSV公開URL | ★☆☆ 簡単 | スプレッドシートをCSV形式で公開し、QGISで読み込み |
| GASでGeoJSON出力 | ★★☆ 中級 | Google Apps Scriptで自動変換、高度なカスタマイズ可 |
| QGISプラグイン | ★★☆ 中級 | 専用プラグインで直接接続 |
実装例:CSV公開URLでの連携
# 1. Googleスプレッドシートの設定
ファイル → 共有 → ウェブに公開
形式:カンマ区切り形式(.csv)
公開URLをコピー
# 2. QGISでの読み込み
レイヤ → レイヤを追加 → 区切りテキストレイヤを追加
ファイル名:公開URLを貼り付け
X座標:経度列を指定
Y座標:緯度列を指定
# 3. データ更新時
スプレッドシートを更新
QGISでレイヤを右クリック → 再読み込み
→ 最新データが反映される
導入事例:現場管理システム
課題
- 複数の現場担当者がバラバラにExcelで管理
- 最新情報がどれかわからない
- 事務所で地図に落とし込む作業が発生
解決策:Googleスプレッドシート × QGIS
- マスターデータをGoogleスプレッドシートに一元化
- 現場からスマホで直接更新
- 事務所のQGISは自動で最新データを表示
- 全員が同じ地図を見ながら打ち合わせ可能
【導入後のワークフロー】
現場担当A 現場担当B
│ │
スマホで スマホで
スプレッドシート更新 スプレッドシート更新
│ │
└───────────┬───────────────┘
│
Googleスプレッドシート
(マスターデータ)
│
┌───────────┴───────────┐
│ │
事務所QGIS 管理者QGIS
(A氏のPC) (B氏のPC)
│ │
└───────────┬───────────┘
│
全員が同じ地図を共有
→ 情報の齟齬がなくなる
効果
- データ入力の二重作業が解消
- 「最新版はどれ?」問題の解消
- 現場と事務所のリアルタイム情報共有
- 専用システム不要でコスト削減
5. 導入ステップ
5.1 小さく始める方法
ステップ1:目的を明確にする
- 何を解決したいか?
- どんな地図があれば便利か?
- 誰が使うか?
ステップ2:無料ツールで試す
- Googleマイマップで簡単な地図を作る
- QGISをインストールして基本操作を学ぶ
- オープンデータを表示してみる
ステップ3:自社データで検証
- 小規模なデータで試す
- 1つの業務に絞って適用
- 効果を確認する
ステップ4:段階的に拡大
- 成功事例を社内共有
- 対象業務を増やす
- 必要に応じてカスタマイズ
5.2 よくある失敗と対策
| 失敗パターン | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 導入したが使われない | 現場のニーズ不足 | 現場担当者を巻き込む |
| データ整備で挫折 | 最初から完璧を目指す | 小さく始める |
| 機能が多すぎて混乱 | 高機能ソフトから開始 | シンプルなツールから |
| 更新が続かない | 運用体制が不明確 | 担当者・ルールを決める |
| 費用対効果が出ない | 目的が不明確 | 解決したい課題を明確に |
5.3 社内展開の進め方
推進体制
- 推進担当者を決める
- 小さな成功事例を作る
- 事例を社内で共有
- 横展開を進める
教育・サポート
- 基本操作のマニュアル作成
- 定期的な勉強会
- 困ったときの相談窓口
6. よくある質問(FAQ)
基本的な操作は、ExcelやWordが使えれば十分習得できます。
最初は「地図を表示する」「データを重ねる」といった基本操作から始めましょう。高度な分析は必要になってから学べば大丈夫です。
無償ソフト(QGIS)を使えば、ソフト費用は0円です。
主なコストは以下の通りです:
- ソフトウェア:0円(QGIS)〜 年間数十万円(ArcGIS)
- 教育・学習:独学〜 研修費用
- カスタマイズ開発:必要に応じて
- データ整備:工数(社内 or 外注)
まずは無償ソフトで小さく始めることをおすすめします。
基本的な操作であれば、一般的なビジネスPCで十分です。
推奨スペック(目安):
- CPU:Core i5以上
- メモリ:8GB以上(16GB推奨)
- ストレージ:SSD 256GB以上
- OS:Windows 10/11、macOS
大量データを扱う場合は、メモリ16GB以上、SSD 512GB以上を推奨します。
はい、使えます。
住所や座標(緯度・経度)が含まれていれば、GISに取り込めます。住所の場合は「ジオコーディング」という処理で座標に変換します。
はい、現場での活用が可能です。
- QField(QGIS連携):オフライン対応、現場入力に最適
- ArcGIS Field Maps:ArcGIS連携、高機能
- Googleマイマップ:簡易的な閲覧・編集
現場で入力したデータを事務所で分析、という使い方ができます。
使い方次第で十分安全に運用できます。
- デスクトップGIS:データは自社PC内、外部に出ない
- クラウドGIS:サービスのセキュリティポリシーを確認
- ISMAP登録サービス:政府基準のセキュリティ
機密データを扱う場合は、デスクトップGISまたはISMAP登録サービスをおすすめします。
7. 次のステップへ
GISをさらに活用するために
基礎を固めたら
AI連携に興味があれば
最新技術を知りたければ
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